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harukaさんとのこのプロジェクトは何年も前から始まっていた気もしています。
「ワインは人が作るものではなくて畑で生まれるもの」という考えを大切にワイン造りに向き合ってきました。
そして何も加えることなく自然に造られたワインは雨そのものだと言えることに気がつきました。畑に降り注いだ雨が地面に染み込み、それをぶどうの根が吸い上げて果実に蓄える。そこから果汁を取り出し他に何も加えることなくただ微生物の働きによってワインとなる。そしてワインはぼくたちの身体を通って海に帰り、また空に昇り、やがてまた畑に降り注ぐ。
何先年も続いてきた大きな循環。
これから先もずっと続いていくように。
ワインを飲んでいて身体になじむというか身体に染み込む感覚を持てることがあります。頭や味覚ではなく無意識の領域で自分の細胞が仲間だと認め受け入れているような感覚。 そのようなワインが生まれるためにはきれいな美しい雨が必要だと考えています。そして美しい雨が降るためにはきれいな空気、美しい風景が必要です。では美しい風景が生まれるためにはどうしたらいいのでしょう?ぼくは美しい風景を感じることそして人と人が繋がることだと信じています。美しい風景を感じることができれば大切にしたくなるし人と人が繋がればそれはきっと伝わっていくと思うからです。
美しい風景を生み出すことは一人では出来ません。すべての人の力が必要です。今回、harukaさんが想いを共有し音楽で「美しい風景」を表現してくれることになりとてもうれしく思っています。これでまた少し「美しい風景」に近づいたことを確信しています。ぜひこの味覚、嗅覚、視覚、聴覚を同時に刺激する全く新しい作品を感じてください。
ぼくのおすすめの鑑賞方法ですが一度目は、映像を見ながら音楽を味わって二度目はワインを1口飲み、それから目をつぶって音楽に集中するときっと雨をとりまくさまざまな情景が浮かんでくると思います。雨を主人公とした演劇を見ているような。今まで感じたことのないまったく新しい体験であり、新しい表現方法のように感じています。もちろん自由に味わっていただいていいのですがぼくの個人的なおすすめです。
BEAUPAYSAGE 岡本英史
美しい食卓へ
この物語の始まりは、祐天寺・margoの夕餉だったのかも知れない。煌く思い出が詰まったテーブルには、いつも最高の食事と音楽と、そしてワインがあった。
それがBEAUPAYSGAGEのワインだったことを知り、岡本さんと出会い、対話し、僕は八ヶ岳高原音楽堂で即興演奏のピアノを弾いた。
終演後、もう一度あのピアノを弾いて欲しいと岡本さんから言われ、僕らの「循環」が始まっていった。
彼の話で特に印象的なのは、やはり雨の話だ。
良いワインを作るために、良い土があり、土壌を作るためには良い雨が必要だ。
では、良い雨を作るには?
音楽は何処から生まれてくるのだろう。
ピアノの88鍵盤を叩くことで、弦が振動し、鼓膜へ届かせる響きは、ピアノを形成する木々から生まれている。
では、あなたは森を歩いて音楽を感じていますか?
このテーマを互いに持ち合わせて、僕らの物語はある一つのカタチへと向かった。
八ヶ岳高原音楽堂での二度目の演奏会。
ホールを抜け出して森の中での演奏、ワインを飲みながら共にある音楽、、しかし2020年初夏に予定していたその企画は叶わなかった。
演奏会の出来ない中で、いま届けられることとは。
とても静かな雨が降る、その初夏。
津金のワイン畑に岡本さんと立った。
山梨の山々を眺めながら音楽が生まれていった。
ワインと共に。
それを届けたい。
美しい雨から生まれたワインと音楽。
今度は何処かの食卓で、夕餉を囲みながら、僕らからの「美しい風景」を味わってもらえたらと願って。
いつの日かのあの、margoのテーブルのように。
haruka nakamura
音楽家
BEAU PAYSAGE
岡本英史
山梨県・北杜市津金にある自然ワインのワイナリー「BEAU PAYSAGE」。オーナーであるワイン栽培醸造家、岡本英史。自然をそのまま享受し、映し出したそのワインは、国内外問わず多くのファンを持つ。1999年に津金で初植樹以来、2008年にワイナリーを創立。2014年には生産者が自ら情報を開示し、消費者とつながるプラットフォーム「バタフライ・プロジェクト」を立ち上る。パタゴニア主催「1% for the Planet」(自然環境保護を目的に、年間売り上げの1%を活動に寄付するプロジェクト)に参加。BEAU PAYSAGEのラベルには、「グラス一杯のワインで地球が変わります。そう、食べ方や飲み方で地球は変わるのです。そんなの夢みたいとあなたは思うかもしれません。でもいつかあなたも私たちと一緒に歩き出してくるのを願っています。」と書かれいる。
haruka nakamura
音楽家
青森出身。最新作は初のミュート・ピアノソロアルバム「スティルライフ」。ソロ名義の他、様々なユニットで多数オリジナルアルバムを発表。東京・カテドラル聖マリア大聖堂、広島・世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする、多くの重要文化財にて演奏会を開催。近年は、杉本博司「江之浦測候所」のオープニング特別映像、国立新美術館「カルティエ 時の結晶」安藤忠雄「次世代へ告ぐ」などの音楽を担当。京都・清水寺成就院よりピアノ演奏をライブ配信。東京スカイツリー、池袋サンシャインなどのプラネタリウム劇伴音楽を担当。早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて自作曲でオーケストラ共演。Nujabesをはじめとする多くのアーティストとのコラボレーションを行う。翻訳家・柴田元幸との朗読セッション(ライブアルバムを発表)や、画家ミロコマチコとのライブペインティング・シリーズも敢行中。evam evaなどブランドとのコラボアルバムを多数制作。カロリーメイト、ポカリスエット、AC公共広告機構、CITIZENなどCM音楽を手掛ける。